朱元璋の基盤
朱元璋の反乱の基盤となった地域は、南宋以来の江南の開発によって生産力が高まっており、元の支配も十分に及んでいなかった。元の支配下においても漢人地主による大土地経営が行われ、多くの農民は佃戸=小作人として搾取される立場にあった。紅巾の乱は貧しい農民の弥勒仏の来臨を待ち望むという白蓮教信仰を紐帯として広がったが、朱元璋自身も貧民の出身であり、はじめは紅巾の賊に加わった。地主層はその攻撃の対象になったので、反乱軍と戦ったが、本来彼らを守るべき元軍にはすでにその力はなく、地主層は次第に反乱軍のなかから新たな権力を見いだそうとするようになった。それと結びついたのが朱元璋であった。朱元璋軍は他の紅巾軍と異なり、規律も厳しく、その幕下には李善長のような儒学者もいたので、勢力を強めると友に白蓮教色を薄めてゆき、地主層も元に代わる新たな権力として朱元璋を支持するようになった。つまり、朱元璋は、モンゴル人の支配と地主による搾取という二重の苦しみの下にあった江南の農民を組織して元に対する反乱へと導き、途中から豊かな江南の生産力をもつ地主層を支持基盤として新たな農民統治権力を作り上げた、と言うことができる。