なぜ嗅覚がこれほど強力なのか。その理由は、嗅覚システムが脳の「記憶のハブ」である海馬に直結するスーパーハイウェイを持っているからだ。他の感覚器官が進化の過程で脳内で迂回するルートを辿るようになったのに対し、嗅覚だけはダイレクトに記憶中枢へアクセスできる。つまり、匂いを嗅ぐだけで脳の深層部分を無意識に刺激できるのだ。
レオン博士はソムリエを例に挙げる。数千種類のワインの香りを嗅ぎ分ける訓練を積んだマスターソムリエの脳は、一般の人に比べて記憶に関連する領域が厚くなっているという研究結果がある。これは、日常的な嗅覚刺激が脳を物理的に強化し、神経変性疾患への抵抗力を高める可能性を示唆している