「幽霊屋敷」と聞けば、多くの人は一刻も早く逃げ出したいと思うだろう。だが、エリザベス朝にルーツを持つ塔付きの邸宅で暮らすある英国人男性は、そこに巣くう霊たちを「親友」と呼び、穏やかな日々を送っているという。 彼がその「小さな城」に辿り着くまでには、人生のすべてを失うほどの過酷な道のりがあった
経営コンサルタントのモク・オキーフ氏(56歳)の人生が暗転したのは、2010年、ロンドンで暮らしていた頃だったという。わずか2年ほどの間に、彼は家族のほぼすべてを失った。 44歳の兄アンドリューさんが世を去り、その葬儀の翌日には父親までも死去。母親は判断能力を失い、彼自身も職を失って自宅の売却を余儀なくされた。一時は週20ポンド(約4千円)で暮らす、人生最悪の時期だったという
それでも彼は崩れ落ちなかった。生前、兄から、残される3人の姪を育ててほしいと託されていたからだ。母親の介護、姪たちの世話、新事業の立ち上げに追われる日々。そんな極限の中、気分転換に買ったグロスターシャーのコテージが、彼の運命を大きく変える
チャールズ国王の邸宅ハイグローブに近い村で、モク氏はジョー氏と出会い、恋に落ちて結婚に至った。あの絶望的な出来事がなければジョー氏にも幽霊たちにも巡り会わなかっただろうと、彼は人生を旅にたとえて振り返る。 幸せの絶頂にあった二人は5年前、ジョー氏の家族の近くで暮らすためウェールズへ移住。アバーガベニー近郊で90万ポンド(約1億7千万円)を投じ、塔付き・5寝室の「小さな城」と貴族の称号を手に入れた。いまや男爵となった彼は、その暮らしをYouTubeやInstagramで発信している
だが、前の所有者からは不穏な言葉を告げられていた。この家は呪われている、階段で何者かに体を持ち上げられて運ばれたことがある——と。当初は迷信だと一蹴していた彼だが、やがて考えを改めることになる
引っ越しに際し、モク氏は霊たちに、家を共有するのは構わないが干渉はしないでほしいと告げた。数ヶ月はその「協定」が守られていたが、やがて人影が動き、照明が点滅する怪現象が始まった。 家の過去を調べた彼は、ぞっとする歴史を掘り当てる。数百年前、この地域では処刑される者たちが、現在ウェールズ随一の心霊スポットとして知られるパブ「スキリッド・マウンテン・イン」へ連行されていた。そして絞首刑の前夜、彼らはこの建物を訪れ、まさに今のモク氏の寝室にあたる部屋で最後の一夜を過ごしていたというのだ
はじめは信じていなかった彼も、夜中に階段を上る足音で目覚めるようになった。床のヨガマットが目を離した隙に丸められていたこともあれば、飼い犬のシュヌードルが何もない空間に激しく吠えたてたこともあったという。 のちに招いた地元の霊能者リサ氏は、階段の人影についてある可能性を示したとされる。それは「タイムスリップ」のような現象であり、彼が見たのは、処刑執行人が囚人を連行して階段を上る遠い過去の光景だったのではないか——というのだ
この家にはもう一人、忘れがたい存在がいた。9人兄弟の末っ子として生まれ、90代までこの家で暮らし、庭の桜の木の下に遺灰が撒かれたというグラディスという女性である。近隣住民は彼女らしき姿が敷地を歩くのを見たと話す
リサ氏はグラディスを介し、霊たちの態度が良くないので家の主人がもっと毅然と主導権を握るべきだと助言したとされる。そこでモク氏は自室で、夜9時半以降は2階へ上がってこないよう霊たちに言い渡した。それ以降、怪現象はほとんど収まったという。 いまや彼は霊の存在を確信しているが、恐れてはいない。騒がしくする霊がいれば、ただ「光の中へ還りなさい」と伝えるだけだと語る
この家に入ると本物の愛に包まれる感覚を覚えるといい、家そのものを自分とジョー氏との「三者の結婚生活」を支える家族の一員のように捉えている。 彼は最期にこの家から棺で送り出されることを望み、自分の遺灰の一部を、グラディスが植えたという桜の木の下に彼女の遺灰と共に撒いてほしいと願っているという
すべてを失った男が最後に辿り着いたのは、生者と死者が同じ屋根の下で寄り添う、風変わりな「家族」の形だったのかもしれない。幽霊と暮らすことは恐怖なのか、それとも救いなのか。少なくともこの城の主にとって、答えはもう出ているようだ