どうしてそんな不思議なことが起こるんだろうと思っていると、師匠はあっさりといった。
「この村から標高で300メートルくらい下がったところにダム湖があるんだけど、たぶんそのせいだと思う。
あれが出来てから、湧き水の場所も随分変わったと年寄りはいってる。地下水脈の流れが変わったんだよ」
しかし、湧いたり枯れたりというのは変な気がする。しかも満月の夜にだけ湧くというのは出来すぎている。
ところが「潮汐力だよ」とまたも師匠はあっさりいった。
月の引力が地球に与える影響はわずかなものだが、液体である海などはモロにその影響を受ける。
潮の満ち干きがその代表で、その力を「潮汐
力」と呼ぶ。
そして満月の日はその力が最大になり、大規模なダム湖もまたその影響を受けたのではないか、と師匠はいうのである。
「湖水のわずかな圧力の変化が、ダム湖に流れ込む地下水への圧力の変化となり、湧き水に微妙な影響を与えたんじゃないかな」
...もっと見る「なるほど」
ひっかかるところもあったとはいえ、俺はその答えに素直に感心した。
「ただね、この村ではあの沢はあくまでも『月の湧く沢』であって、
そんな無粋な構造によるものじゃない。こんな言い伝えがあるんだ。
『あの沢に湧いた月を飲んだ者には霊力が宿る』」
ロマンティックな話だ。
でも、霊力、という響きに不吉なものを感じたのも確かだ。
案の定、師匠はいった。
「じゃ、行こうか」