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1: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:45:57 OMPVG0082

突然だが、僕は電話が苦手だ。
それは電話が面倒だとか、メールの方が楽だとかそういうことではない。
電話が掛かってくる度にぎゅうと心臓が掴まれたようになる

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6: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:47:45 OMPVG0082

リーん

急かすように公衆電話は鳴り続け、僕たちも誰かがこの電話に出なければならないのでは? と思い始めた。
今になって考えると、あの時逃げ出せば良かったと思う。
しかしそのときの僕たちは、肝試し的な感覚で、電話が鳴ったら出なくてはならないという思いに捕らわれていた。

「なあ。お前出ろよ」

「いや、お前こそ」

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7: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:48:04 OMPVG0082

知らない人もいるかもしれないが、公衆電話ボックスは大体が一人しか入れない。
バリアフリー目的の広々としたものは、あまりこういう場所には設置されていない。
ぎゅうぎゅうになりながらも僕たちは中に入ろうとすし詰めになる。
一人になるのが怖かったんだと思う。
少なくとも僕はそうだった。

扉を開け放し、丸井は僕たちにも聞こえるように受話器を取った。


「………………………………み……」
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8: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:48:28 OMPVG0082

「……か…………あ……と…………み……」


か・あ・と・み

ずっとこれを繰り返している。
そのうちに電話が切れてしまった。

「最初は怖かったけど、何か拍子抜けしたなあ」

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9: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:48:49 OMPVG0082

翌日にはみんなそのことを忘れていた。
またいつものようにコンビニに集まり、「何か面白いことない?」と言い合っていた。

さらに二日後。
丸井が死んだ。

僕たちはあまりに突然のことに、わけが分からなくなった。
通夜、告別式が終わっても僕たちは一言も喋れなかった。
丸井の兄が、「君たちの事はよく聞いていたよ、今まで仲良くしてくれてありがとう」と言った時に初めて涙が出た。

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10: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:49:10 OMPVG0082

「アイツがいないなんて、今でも実感がわかないよ」

伊勢は、亡くなったとは言わず、いないと言った。

「そうだな。アイツと最後に会ったのいつだっけ? ……コンビニか」

「いつもコンビニだもんな、はははっ……はは……」

それにつられて他の三人も力なく笑う。
この喪失感を何とかしよう、そう考えていたんだと思う。
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11: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:49:33 OMPVG0082

「カートミって何だったんだろうなあ?」

皆、丸井が死んだことに対して逃避したかったんだろう。
分けわかんないよな、とか、幽霊とかそんなのいないし、とかくだらない方向に話を持っていこうとしているのが分かった。
カーコンビニクラブとかの車屋の宣伝じゃねえのかなあ、いやいや電話の電波チェックだよ多分、でも雑音が酷かったぞその割には。

僕たちはやいのやいの努めて明るく下らなくなる様に笑いながら話し合った。

「カートミ、カートミ、カートミかあとみ、か、あと、みっか、……あとみっか」

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12: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:49:53 OMPVG0082

丸井が死んだのは公衆電話に行った後の三日後だった。



二時間後、僕たちは公衆電話の前にいた。
もしもこの公衆電話のせいで丸井が死んだのだったら、僕たちは仇を討たなくてはいけない。
皆、手にバットやカナヅチを持っていた。
喪服姿の高校生が凶器を持って自転車に乗っているのはさぞ奇妙に見えただろう。
僕たちは夜が更けるまで待った。

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13: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:50:15 OMPVG0082

伊勢が身を出し、ボックスの中に入った。
僕たちも後に続く。
ぎゅうぎゅうとすし詰めで、またも扉は開け放している。

「……もしもし」

受話器の向こう側からは何も聞こえない。
サー、という機械音がなるだけだ。
しばらく待ってみたが、プツっツーツーという音が聞こえ、切れてしまった。

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14: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:50:33 OMPVG0082

トンネルの向こう側からクルマのライトが僕たちを照らし、駆け抜けていく。
そのライトのおかげで、今やっていることが妙に気恥ずかしくなった。

「そうかも知れない。何だろうな、俺たち。バカみたいじゃないか」

伊勢が笑い、僕たちも笑った。
僕たちは、丸井が死んだことに対して何も出来ないことに、罪悪感を持っていた。
何かの理由をつけたかった。

ユーレイ何かいないって。
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15: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:50:58 OMPVG0082

リーん

電話が鳴った。

僕たちはお互いの顔を見合わせ、黙った。
一番最初に動いたのは高島だった。

高島が受話器を取り耳に押し当てる。

「…………あ…ふ…か…………と…………つ……あと……か」
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16: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:51:20 OMPVG0082

「二日って、バカこんなの信じてるの? 俺があと二日で死ぬわけねーだろ!? なあ?」

誰に言っているのかは分からないが、高島はそう叫んだ。

「そうだよな。ゴメン」

天満が謝り、僕と伊勢もそれに対して文句を言う。

「偶然だって」

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17: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:51:46 OMPVG0082

二日後、高島は死んだ。

高島の出棺の後、その足でたまり場となっているコンビニに向かう。
店長からタクシーの運転手のことを聞きだすためだ。
伊勢、天満、それと僕。
少し前までは五人いた仲間が三人。
ついこの前まであったものがない。
寂しいとか違和感とか、そういったものでなく、当たり前のものがない。
片腕と片足がなくなったようなものだ。
ちくしょう。
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18: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:52:04 OMPVG0082

いま、いるから」伊勢だ。

そう言って、返事も聞かず電話を切った。


一人、自転車を走らせる。
もう何度この道を通ったのだろう。
この道を通るたびに友達が死んでいく。

ポツンとたたずむ公衆電話からの明かりだけがその道を照らす。
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19: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:52:29 OMPVG0082

リーん。

あの鈴の音のような、電話ベルの音が闇夜に鳴る。
公衆電話以外のものは暗くて見えないから、自然とその音の発信源に目を奪われる。
怖くて、足が、震える。

かちゃり、きい、と言う音が妙に響き、ボックスの中に入った。
ぱたり、と軽い音を立て扉が閉まった。

目の前で、りーんりーんとうるさくがなる電話。
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20: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:53:00 OMPVG0082

空いたもう片方の手で、携帯電話を取り出し、伊勢に掛けようとする。
くそ、圏外だ、こんな時に!
ボックスから逃げ出そうと扉に手を掛けるが、びくともしない。
さっきはあれほど軽い音を立てたのに今度は壁にでもなったかのように全く動かない。

ぼそぼそ、受話器はずっと繰り返している。
もういいよ、助けて誰か。
バンバンと扉を叩く。
誰か、誰か!

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21: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:53:23 OMPVG0082

目線の先には足が見える。
とっさに顔を上げるが、顔が見えない。
助けてくれと叫ぼうとした、が、その足、その足は何も履いていなかったのに気付く。
山中を裸足で歩く人などいない。
さらにその白さに、助けを掛ける人間でないことを理解した。
恐怖した。


ぱん……ぱん……ぱん……ぱん……

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22: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:53:43 OMPVG0082

ぱん……ぱん……ぱん……

力なく窓ガラスを叩くような音。
目の前で鳴ったと思ったら、後ろで叩かれる。
色々な方向からぱん、ぱんと手のひらとともに音が鳴る。

異様に白い足、手。

見えるのはそれだけ、外は真っ暗闇で何も見えない。
ぼそぼそ、と受話器はまだ何かを続けている。
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23: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:54:06 OMPVG0082

僕を探しているのか。
いやだいやだ。
手のひらに触らないように逃げる、避ける。
たくさんたくさんの手。
すうっ、すうっとたくさんの手が足元で現れ消える。

ぼそぼそ言う、受話器。

「もう止めてください! ごめんなさい!」

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24: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:54:21 OMPVG0082

その時、轟音が耳をつんざいた。
ばりばり、とガラスが砕ける音。
顔や服にガラス片が散らばる。

伊勢・天満がボックスを壊している。

「おい! 大丈夫か!?」

助かった、と思った瞬間僕はその場でへたり込んでしまった

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25: アセム雨宮◆UD16NvPYxY
2026-07-07 13:58:10 OMPVG0082

コンビニについて、落ち着いた僕は夏なのにホットコーヒーをすすりながら話をした。
二人と僕の話はかみ合わなかった。
二人によると僕がボックスの中で暴れているのが見えただけ。
人? 手? 知らない。
そもそも伊勢は僕に電話などしていない。
確かに着信履歴に伊勢の名前はなかった。
大体、何故あの声が伊勢だと思ったのだろう。
妙に抑揚のない女のような声だったはずだ。

伊勢は天満と僕の家に行こうとした。
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